講義の説明

情報更新日:2018/05/31

「二刀流」農家道

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彼を最初に見た第一印象は「いかにも侍、それでいてパンク」。イカツイ顔立ち、大きな体躯、ゴツいTATOO。しかしその笑顔のなかに、大きく深い優しさを感じます。

「一体どんな男なんだろう。個人的には好きなタイプだな。」という最初の出会いから、今回The CAMPusに彼を教授として招き、私がその担当ナビゲーターとなるというご縁のめぐり合わせに、私自身もワクワクしています。

彼の名は「田中英之(たなかひでゆき)」。相模原津久井の農家に生まれた彼ですが、タイトルにあるように、The CAMPusでは敬意を評して「二刀流農家のヒデさん」と呼ばせてもらうことにしました。

なぜ兼業ではなく「二刀流」なのか?最初ですから、ここは説明しておきたいと思います。

ヒデさんは兼業農家をめざしたわけでもなく、ましてや考えなしになったわけでもなく、もちろん専業農家をあきらめたわけでもありません。己の信念を貫いてきた結果、そのワンアンドオンリーなスタイルを築きあげてきたのです。

ヒデさんは平日、建築現場の現場監督をし、週末を中心に畑に出る生活ですが、それだけではなく、サーファーとして海にも行くほか、民謡デュオ「nou-min」の太鼓担当として音楽活動もするなど、多彩な活動を展開しています。

もとは測量会社の経営者として順風満帆だったヒデさんですが、別事業として実家の畑で農業にチャレンジした結果、大きな挫折を味わいました。しかし彼はその経験を通じて農業の魅力を知り、どうしても農業を続けたいと考えたすえ自らの会社をたたみ、サラリーマンとして働きながら農業を続けるという決断をくだしたのです。

ヒデさん曰く「事業としての農ではなく、生き方としての農を選択したんだ」のだと。

この話を聴きながら、これが講義の肝だな、と感じました。そんな彼が栽培するのは、この地方に古くから伝わる「津久井在来種」とよばれる大豆のみ。就農当初は多品種栽培にもチャレンジしたそうですが、農地が少なく山がちな津久井地方の地理的条件とライフスタイルにあった作物を探したすえにたどり着いたのが大豆だったそうです。自然栽培で在来種の大豆のみ。このあたりも一本気な彼らしさです。

しかし彼は作物を作るだけの農家ではありません。その大豆を、インドネシアの国民食とよばれる「テンペ」に加工し、オリジナルブランド商品「SoyDish」として販売、さらに商品のPRやブランディングまでを自ら手がけているのです。そのマーケティング手法はまさに現代のニーズをしっかり押さえており「SoyDish」は販売、即売り切れ状態という人気商品なのです。

こんなふうにあくまでも人とは違う、独自の考えをもちながらも、柔軟性やバランス感も兼ね備えたヒデさんはこう言います。

「農業一本に絞ればそれはそれでやっていけると思う。でもあえて自分はそうじゃない生き方をしたいんだ。なぜなら日本の農業を救うには、農業人口が増えなきゃならないし、そのためには農家はカッコよくなきゃいけないから。だからこのスタイルを選んだんだ」

この講義を始めるにあたり、タイトルや内容について彼と話しました。

私「ヒデさんを一般的にいわれる『兼業』って書きたくないなあ。」

ヒデさん「そうだねえ。なんかいい言葉考えたいね。」

そんなやり取りを何度か繰り返し、何日も考え続けるうち、最初の印象が浮かび上がってきました。「そうだ、彼は津久井の侍だった。その不器用な生き方もまさに侍だ。だったら二刀流だろ!」という流れでこの言葉は生まれたのです。

え、そのまんまじゃないかって? いや、ここが一番大変で感動的なところだったんですけど…と、とにかく、この講義を受けてもらえれば、みなさんには、必ずや「二刀流」とい言葉がピッタリだと分かってもらえると思います。

これからの時代、農業のスタイルはさらに多様化していくでしょう。そんななか、これから必要とされるのは、彼のようにブレない信念をもちつつ、どのように個々の「生活としての農」を実現するのかという「在り方」を伝えていくことだと思います。

この講義では、これからの農家、農的暮らしを実現するなかで知っておくべき社会の問題点や、独自のライフスタイルをつらぬくために必要な考え方、オリジナルブランドをつくるコツなどを、毎回ひとつのテーマを決めたディスカッション形式でお伝えしていきたいと思います。

この講座は、他とはちょっと趣が異なるかと思いますが、そこも彼らしいし、彼にしかできない講義なんじゃないかと考えています。

基本は骨っぽく、でもときにはお茶目な津久井の侍、ヒデさんの魅力を存分に引き出していきたいと思います。楽しみにしていてください。

田中英之
神奈川県相模原市/ロコスファーム代表

「Loco's Farm」代表。兼業ではなく、日本に生まれ育ったサムライとしての精神性をもって「二刀流」と呼ぶライフスタイルを標榜、実践している。「農業は生き方である」という自らの心の声にしたがい「農業をつづけるためにサラリーマンになる」という道を選択。津久井地方に伝わる「津久井在来種」の大豆を、自然栽培で育て、インドネシアの国民食である「テンペ」という発酵食品に加工、オリジナルブランド「Soy Dish」として販売するまでのすべての工程を、一人でプロデュースしている。