梶谷ユズルの三ツ星ハーブ学

情報更新日:2018/05/15

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上から目線のスターシェフはお断り

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高級フランス料理店から引く手あまた。しかし、梶谷ユズルさんはいかに有名なシェフでも志が合わない人とは取引しません。そのことばの裏側には、食べ物のつくり手として、ヨロコビを共有できる人と人とのつながりを大事にするスーパースターの哲学がありました。

レストラン業界では超有名人、 逢いにいってみませんか?

「三原市(広島県)に自分でスーパースターファーマーと名乗るハーブ農家さんがおるんですよ。レストラン業界では超有名人、逢いにいってみませんか?」――ある時、尾道で飲食グループを経営している友人から連絡が入りました。

「え、三原にそんな人いる?八天堂のクリームパンは全国区になったけど…?」

「クリームパンじゃなくて、フレンチ!高級フレンチの料理人から引っ張りだこ。お皿にピンセットで盛り付けるようなデリケートな世界です。」

「え、ピンセット?」

「ウエイティングの店が300件ぐらい、新規取引は無理みたいですよ。うちは地元つながりもあって取引してますけどね。ベビーリーフとかも味が濃くて、評判がいいんです。うちの店はフレンチではないすから、オリーブオイルと塩をパラパラという程度でサラダにして提供していますよ」。写真は、尾道駅前の「こめどこ食堂」にて。

で、逢いに行ってみました。広島県三原市。
新幹線を降りると、「タコのまち」と書かれた看板があちこちに。駅前は、きらきらした瀬戸内をのぞむ城下町。タコツボ型の公衆電話とかあります。潮の匂いがほんわりと漂う三原駅前、そこから車で30分ぐらい走った山間部に久井町(くい・ちょう)。うわっ、空が広いですこのあたり。スーパースター・ファーマーのいる梶谷農園(かじや・のうえん)に到着です。敷地内にはご自宅と、ご両親が住まわれている家、研修生たちの宿泊棟、作業場、幾種類ものハーブを育てているビニールハウス。世界各地からレストランのシェフや農業研修生たちがやってくるんですって。さっそく、案内してもらいましょう。(長身で坊主頭、久井の海老蔵とひっそり呼んでみます(笑)。)

1㎝のリーフを1000枚ほしい、 シェフの特注に応えられるか?

「ここは作業場。収穫したハーブを、注文ごとにパックに詰めて出荷しているところ。たとえば“新芽のサイズが1㎝のものを1000枚ほしい”というような特注に応えていけるのが、梶谷農園の強みです。」

注文は、朝入ってきます。仕事を終えた料理人たちが、梶谷さんのところにオーダーをするのは真夜中。それを、毎朝、梶谷さんと奥様のゆりさんがチェックして、作業場に指示を出します。次の日には日本各地に届きます。棚に並んだ段ボールには、東京、大阪、広島、静岡、奈良、宮城、富山、鹿児島の地名と、名立たるレストランの名前…!

 

シェフがほしい野菜を 農家は知らない。

「シェフがほしい野菜を農家の人はほとんど知らないし、料理を食べている人のことも見ていない。大切なことだと思うんですけどね。料理人は、統一されたサイズや食感、香りがあるものを欲しがっているのに、農家は求められていない作物ばかり育てていました。それで、なんで誰も買ってくれないんだ?となっていたんです。」

自分がつくったものを誰が食べてどう思っているか?そこに責任を持ちたいし、そこにこそ生産者としてのヨロコビがある。実際にその店に足を運んで料理を食べているからこそ、シェフがハーブをどのように使うのか、なぜ、そのサイズが必要なのか明確にイメージできる。だから、「よし、揃えてやろう」という気持ちになるのです。結果、店側も「これまで苗を100個ぐらい買って新芽だけとって捨てていた」という手間が省け、ロスなく手に入ります。

梶谷さんだけでなく、農園で働く従業員のみなさんも、積極的にレストランに食事をしにいきます。そうすることで、ハーブを収穫するときにも「これは、あの店で使われるんだな」というのがわかる。「あの料理長はハーブを短めに使っていたから、ちょっと短めに切ってあげるといいかな」と思える。そういった、ちょっとした思いやりを全員体制で心がけているます。「料理するにしても、知らない人に料理するよりも、〇〇さんがこれ好きだからたくさん作ってあげようと思いながら創る方が楽しくないですか?収穫もそれと同じです」

「料理長が直接、連絡をしてこないと僕は取引しません」

梶谷さん、相手がどんなに有名なシェフだとしても媚びることはありません。一般的にシェフが野菜を注文したい場合、次のような流れになります。

料理長⇒野菜担当者⇒資材担当⇒市場⇒仲卸⇒農家。

梶谷さんはそれを全部とっぱらいます。互いにほしい食材がダイレクトにわかる方いい。シェフが料理をつくるのと同じきもちで自分は野菜をつくるわけだから。志を同じくした同世代のシェフと大事に付き合っていきたい、と語ります。

「種は世界中から仕入れます。日本の種屋さんだけだと種類が少ない。アメリカ、ニュージーランド、イスラエル、イタリア、フランス・・・いろいろありますね。あのシェフはこんなハーブが好きだろうな、というのが予想できるから、変わった品種のものを取り寄せて育てみることもありますよ。たいてい喜んで買ってくださいます。」

「これは、酸っぱい葉っぱ。一枚一枚が酸っぱい。食べてみますか?」

「これは豆科のくるくるとした蔓(つる)。白いお皿にも映えるし。可愛いでしょう。こういうのを世界中から集めてきます。豆料理といっしょに盛り付けたら、とってもいい。エディブルフラワーは、茎を刻んで料理に使うこともできるし、花のあとの実もいける。油ものに合わせてもいいですね。」

三ツ星レストランが得意先、といいつつも、梶谷さんは、腕組みして写真を撮っているようなスターシェフは大嫌いと断言します。上から目線で発注してくる人とは仕事が続かない。取引が長く続いているのは、派手ではなくとも心遣いのあるシェフばかり。そんな国内外の腕利きのシェフたちが、「梶谷さんのハーブは最高だ」と仲間に紹介していくことで、販路が広がっていったのです。腰を据えて、ハーブ農園をはじめてから10年。山あり、谷ありの時期を過ぎ、やっと農園の受注体制も、雇用体制も安定してきたとか。次回講義は、「自己主張できない農家は、埋もれとけ!」。スーパースターファーマーがいかにしてゼロからハーブの売り先を開拓していったか、を紐解きます。

梶谷ユズル
広島県三原市/梶谷農園 代表

国内外の凄腕シェフから引く手あまたの「スーパースター・ファーマー」は、1979年に広島県三原市久井町に生まれました。当時、年商1億円もあげるほどのハーブ農園を経営していた両親は海外視察に彼を連れていくことも多く、その影響で中学2年生からカナダの学校に通います。大学はトロントの郊外にある農業系大学へ。その後、北米トップクラスの園芸学校「ナイアガラ・ボタニカル・ガーデン」で植物についての知識を深めます。2007年に帰国、父を継ぎ、農園のオーナーとなりました。「星付きレストラン専用のハーブ栽培」を経営方針とし、シェフの細やかなニーズに応えることができる生産体制を確立。現在10年目で契約レストラン150件、海外研修生も含め約15人のスタッフを抱えます。美食家で読書家、奥様と3人の子どもたちの夕食を毎日担当する料理好きのパパでもあります。

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