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情報更新日:2019/11/04

マーケットインと科学の視点を大事に育む柑橘学

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瀬戸内海に浮かぶしまなみ海道の島々。この瀬戸内の数ある島の中でも、柑橘の生産で名を馳せているのが尾道市生口島(いくちじま)です。生口島ではレモンをはじめ、ミカンやネーブルなど、瀬戸内の温暖な気候の元に豊富な柑橘類が栽培されています。

ここに、東京のレストランプロデューサーも注目している柑橘農家さんが住んでいます。

飲食店でのマネージャー業をはじめ、大型有機JAS認証生産法人の営業職や、果物狩り観光農園で営業・企画の仕事を経てきた菅秀和(かんひでかず)教授は、ここ生口島で柑橘農園・たてみち屋を立ち上げました。

菅さんが柑橘の事業をはじめたのは2012年から。その頃から農薬はもちろん化学肥料や除草剤・防腐剤などを使用せず、レモンをはじめとした全6品種の柑橘を育ててきました。

菅さんの名刺の裏には、「搾る、飾る、食べる」の3つの印象的なフレーズが載っています。これまで搾って捨てられてしまっていたレモンを「皮を食べるところまで含めて完結させよう」という流れを作ってきたたてみち屋。

「前職の果物狩り観光農園の前は有機野菜を生産する会社の営業職に携わり、農業には既に約10年関わってきました。直接的な栽培をしていたわけではなく、サービスや売る方をメインで行なっていたので、作り手として農家になった今でも『どうやって売っていけばいいか』という営業目線が染みついています。その上で、僕が柑橘を育てている中で大切にしていることは、マーケットインと科学・サイエンスの視点なんです」

マーケットインとは、市場や購入者の立場に立ち、消費者が必要とするものを提供すること。あくまで買い手が欲しいと感じる商品を作っていくことを念頭において商品を作り、お客さんの需要をしっかりと満たして渡していくことがマーケットインの目的です。もちろん、その反対のプロダクトアウト(提供する側からの発想で商品を開発・生産・販売する方法)の視点も忘れずに。

「値段重視で安く野菜や果物を買えるお店は、市内を探せばたくさんあります。でも、すべての人が価格の安さだけに惹かれているわけではありません。農家さんから直接仕入れる業者・レストランは、少し値段が高かったとしても『あの農園の、あの農家の。』というような何かしらの理由を持っています。その惹きつけられる魅力や物語、つまり需要をこちらから作り出していくことがマーケットインなんです」

マーケットインの他に、もう一つ、たてみち屋では科学・サイエンスの視点をふんだんに取り入れています。

木の上で育つ果実のために、まずは木の下の土の状態をしっかりと分析する。土壌分析は病院でいうと人間ドックのようなもの。たてみち屋では年に2回(2月と8月)の土の健康状態を見て、その分析結果から何が多くて何が少なかったかを調べ、ミネラルを中心として施肥することで土の環境を整えています。

農作物をつくる以外に、半農半Xならぬ「半農半”伝”」として、農業を伝える活動を並行して行っているのも、菅さんならではの理念があってこそのこと。島で採れた新鮮なレモンを持って、都内各地でレモンにまつわるワークショップやセミナーを行う。その理由には、自社を営業するという目的以外に先を見据えた思いがありました。

「縁あって、農家ではなかった自分が柑橘農園をやることになりましたが、これから新規就農を目指す人や、現時点で食べていくことが厳しい農家さんにとって、希望となるような事例を出していきたいんです。いかに早く安定した収入を作っていけるか、それを伝えていくことも、自分の役目だと思っています」

自分のお店の利潤を追求するだけでは終わらない。これから農家を目指す人にも役立つマーケットインとサイエンス視点の「市場から求められる柑橘農家」の姿を追っていきます。

マーケットインと科学の視点を大事に育む柑橘学

菅秀和
広島県尾道市生口島/citrus farms たてみち家

愛媛県大三島出身。前職は果物狩りの観光農園にて柑橘園を担う。その流れから島に移り住み、2012年自身の農園をスタート。過去の営業経験を活かしたプレゼン技術から、都内や各地でレモンを使ったワークショップを多数開催。農薬や化学肥料を必要としない畑の環境を作るため、土づくりを大切にした「食べて美味しいレモン」を栽培。そのかたわらで、半農半Xならぬ半農半”伝”の形として、市場の流通だけに頼らない農業のあり方や方法の伝える講演活動も行っている。