講義の説明

情報更新日:2019/06/26

個人ではじめる エッセンシャル林業学

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人間は、「木」を使わないと生きていけません。

身の回りを鑑(かんが)みてみると、机や椅子のような家具から、薪や書籍やトイレットペーパーといった生活用品まで、あらゆる場所に「木」が使われていて、それらがなくては生活していけないことに気づきます。

それでは、これらの木材はどこからどのようにやってきたのでしょうか?
その問いに、はっきりと答えることができる人はそう多くないかもしれません。

これだけ暮らしを木に支えられていながら、私たちはそれらがどこからやってきたのかを知る機会があまりありません。近ごろは「食」がどういった産地や生産者から作られてきているのかを気にする人は増えましたが、「木」がどうやって木材としてやってきているのかを気にする人は、まだまだ少ないのが現状です。


その背景には、大きな分断があります。
林業は、第一次産業のなかでも特に消費者から見えにくい世界だと言われていて、森から木を伐るところ(川上)から、消費者に木材が届くまで(川下)までの流れがわかりにくく途切れてしまっているのです。

日本は国土の67%が森林に覆われているとされていますが、伐られた木の行方を誰も知らず、森の様子に関心が持たれないようであれば、森林と地域の距離はひらいていってしまいます。気づいたときには、産業一辺倒にはしる林業によって森が修復不能にまで壊れている、という事態にもなりかねません。そのとき、地域の景観はどれほど寂しいものになってしまっているでしょうか。

そんな現状から森を護ろうとしているのが、北海道で自伐林業をベースにした”エッセンシャルな林業”を営んでいる清水省吾 教授。「里山部」の個人事業主であり、北海道自伐型林業推進協議会の副代表理事やオサラッペ・コウモリ研究所の副所長でもあります。

「コウモリって洞窟に住んでいるイメージだけど、枯れた木の中や木の皮のスキマで暮らしていたり、森林に依存して生きているんだよね」

省吾さんは、大学在学中の研究対象であるコウモリが森林で暮らしていることを知り、彼らが生息のために使っている木々へと関心を持つようになりました。「コウモリのためにも、できるだけ木を伐りたくない」という保全の気持ちが強かった省吾さんを変えるきっかけになったのが、あるキコリの方からの言葉。

「人間って、木を使わないと生きていけないんだよ」

環境保全で木を護ることも大切だけれど、木を伐らなければ人は豊かに暮らしていけない。
そう思うようになってから、森で暮らしているコウモリを護るためだけではなく、人間が豊かに暮らすために必要な森を守るため、省吾さんは林業の道へと足を踏み入れました。

しかし、現行の林業のことを調べていくほど、いまのやり方ではコウモリたちを護れない現実を目の当たりにします。森林を維持管理しながら小規模で行っていく「自伐林業」と違って、大型の機械を用いて山の大部分を切り拓く「皆伐」というやり方では、環境へのインパクトが自然の適応力を超えてしまい、コウモリたちの住む場所が失われていってしまうのです。一方で、環境保全のために人の立ち入りを禁じてしまうようでは、人と森との関係はどんどん希薄になってしまい、暮らしに自然のある豊かさから遠ざかってしまいます。

そこで省吾さんは、産業一辺倒ではなく保全一辺倒でもない、保全と利活用のバランスがとれた森林モデルが必要だと考えるようになりました。
そして、縁の深かった旭川の突哨山(とっしょうざん)という場所にある4.7haの土地を手に入れて「里山部」の活動を開始。
地域にひらかれた小規模な里山モデルを実現し、さらにそのような森林を地域に増やすべく、自ら最前線に立って”エッセンシャルな林業”を展開しています。

省吾さんの提唱する”エッセンシャルな林業”の詳細については、これから講義のなかで詳しく紐解いていきますが、大まかに分けて三本の軸があります。

1. 森 - 消費者の心を豊かにする
2. 山 - 山主の財布を豊かにする
3. 人 - 消費者の意識を変えていく

大切なのは、自然への影響を最小限にしながら「林業」として生業を成り立たせること。現行の大規模な林業の方法では難しいことを、里山部が行なっているコンパクトな林業のスタイルで実現することができます。
実際に、ひとりひとりが土地を持って本質的な意味で「森と共に生きていく」ことができることを、省吾さんは自らの事業で証明し続けています。

「里山部」が行なっている林業のスタイルには、しっかりと森に向き合って暮らす生き方や半林半Xのように森を取り入れた生き方を実現するためのエッセンスがたくさん詰まっています。
本講義である「個人ではじめる エッセンシャル林業学」では、そのエッセンスを森の中からお伝えし、ひとりひとりが六世代先まで森と共に豊かに暮らしていく方法を、皆さんと一緒に学んでいきます。

個人ではじめる エッセンシャル林業学

清水省吾
旭川/里山部代表

北海道の森を護り次世代に繋げるため、エッセンシャルな林業を展開する「木のプロデューサー」。環境保全型林業を行う「里山部」の代表であり、北海道自伐型林業推進協議会の副代表理事やオサラッペ・コウモリ研究所の副所長という肩書きも持つ。大学時代に調査していたコウモリたちが森林に依存して生きていることを知り、その生態を護るために林業の道へ入るも、現行の林業では護れないことを知る。そこで、森の保全と利活用のバランスがとれた小規模な里山モデルをつくるために、縁の深い旭川・突哨山(とっしょうざん)の土地を買い取って「里山部」の事業を開始。誰が何のために木を使うのか分かるまで伐らないポリシーを持ち、木と消費者をつなぐために”会いにこれる木材”をプロデュースしながら、地域にひらかれた熱く透明な林業を行なっている。